2004年06月11日 (金)

森と海辺を歩く旅【1】

〜ウエストコーストトレイルをゆく〜

<旅の相棒>

 カナダ西海岸部への一人旅を決めた春頃のこと、福岡に住む友人から電話が入り、彼女は電話口で唐突にこんなことを言うのでした。
「ねえ、千恵ちゃん、私急にカナダの森に行ってみたくなっちゃったんだけど・・・。それでね、キャンプもしてみたいの」
 彼女の思いがけない言葉に大笑いしつつも、感覚的で自分の中に芽生えたインスピレーションを大事にする彼女の姿勢に共感した私は、旅のひとときを彼女と共にするのも良いかもしれないなあと自然に思い始めていました。
 その友人こと、みーちゃんとは、大学探検部時代の先輩が彼女と結婚したことがきっかけで知り合って以来、数年のつき合いです。これまで会った回数はそう多くはないのですが、会えば様々ことを気持ち良く話せる友人です。
30代半ば、うりざね顔の平安美人といった趣で、おっとりとした話し口からは想像しがたいのですが、みーちゃんはかつて、肉体的にも精神的にも過酷さを極めるアドベンチャー・レースと呼ばれる競技のレーサーでした。
 アドベンチャー・レースっていったいどんなものかと言うと、例えば海山川といったフィールドに設定された500キロの距離を1週間というリミットの中、走ったり、カヤック、マウンテンバイク、時には馬に乗ったりしながら、チームでゴールを目指す、強いて言えばトライアスロンをもっと大がかりにしたようなレースなのです。それだけの距離を限られた時間内に、人力だけで移動するため、睡眠時間は一日せいぜい数時間、それも山の中でほんの30分ばかり仮眠をとるだけ、なんて常人だったら聞いただけでも気が遠くなりそう!
 そんな経験を持つ彼女の口から「普通のキャンプがしたい」という言葉が漏れると、何となくおかしいような、確かにそうかもなあと妙に納得してしまうような気になってしまいました。
「よしっ、今年の夏はちょうど私も気ままな一人旅の予定だし、一緒にどこかの森でキャンプしながら、あちこち歩いてみようか」
 こうして、私の旅に相棒がひとり加わることになったのです。
電話を切ったあと、みーちゃんが時間をとれる6月の2週間で、一緒にまわれそうな場所を考え始めて、真っ先に頭に浮かんだのは、「ウエスト・コースト・トレイル」でした。

 カナダ西海岸からアラスカ沿岸部にかけてのびる太平洋に面した一帯は、暖流による温暖な気候と、豊かな降雨量に育てられた温帯雨林、レインフォレストと呼ばれる森が広がっています。
カナダ内陸部のカラリとした森のイメージとはすっかり異なり、レインフォレストの森は鬱蒼と湿り気を帯びています。
 太平洋側、最大の国際都市であるバンクーバーから2時間程フェリーに揺られたところに、バンクーバー島があります。全長500キロのこの島の西側にパシフィック・リム・ナショナルパークという国立公園があり、そこを南北に貫くように森と海辺を行ったり来たりしながら75キロのびているトレイル、それが「ウエスト・コースト・トレイル」です。
 私はここをふたりの旅の地にすることにしました。
トレイルに一旦入ってしまえば、あとはずっとキャンプ生活、必要な食料もすべて背負っていくことになります。私は、バックパッキングの旅に必要な装備のリスト、トレイルの地図をみーちゃんに郵送すると、現地での再会を約束して、一足先にカナダへ向かって飛び立ちました。

↑Top | 投稿者:菊地千恵