2004年06月17日 (木)

森と海辺を歩く旅【3】

〜ウエストコーストトレイルをゆく〜

<トレイルへ>

 インフォメーション・センターの建物の外の掲示板には、熊とクーガーに関する注意書きが張り出されていました。最近の熊の目撃場所、日時やオオカミやクーガーの足跡の残されていた場所の情報、その周辺で十分注意を払うことなど、写真と文章で説明されています。
しばらくの間日本の山奥でぼんやり暮らしていたので、熊やオオカミの住むエリアにこれから自分が入っていくということに頭がついていかないようで、実感がまだ沸かずにいました。
 それらの情報に目を通しているうちにオリエンテーションが始まりました。
 ウエスト・コースト・トレイルへは北側の入り口パチェナ・ベイと南側の入り口ポート・レンフリューのどちらからでもスタートすることができます。それぞれにインフォメーション・センターが置かれ、トレイルを歩く予定のハイカーは必ず、パークのレンジャーからオリエンテーションを受けることになっているのです。
 同日に出発するハイカーは、10代後半の青年と父親組、若いカップルに私たちを含めた6人。
オリエンテーションでは、動物に関する注意から、トレイル状況、タイドテーブル(潮見表)の見方、クリークを渡るときの注意事項など、ハイカーに必要な情報をスライドを使いながらの説明が進んでいきます。
ウエスト・コースト・トレイルが面白いところは、所々で海岸線を選んで歩けるという点なのですが、いつでもどの時間でも歩けるというわけではなく、日に日に変わる潮の時間を読んで、引き潮を見計らって海岸のルートをとることになるのです。
 タイドテーブルの話が終わった時点で、私の頭はさっぱりついていっておらず、表情に「分かりません」というのがありありと浮かんでいたのでしょう。
「ん?分からない人には、またこれが終わったあとマンツーマンで説明するわね」
ハイテンションの女性レンジャーは、みーちゃんと私の顔を交互に見ながら、にっこり笑うのでした。
 1時間ちょっとのオリエンテーションが終わると、登山でいう入山証にあたる用紙にサインし、それぞれ出発していきました。この用紙のコピーはトレイルを歩き終え、もう一方のトレイル・ヘッドで提出することになっているのです。
「さて、タイドテーブルをもう一度やりましょうか」
居残り学習で、ぽつりと取り残された私は再びの説明でようやく理解して、ホッと胸をなで下ろしました。 いよいよ用紙にサインをして、いざ出発だわと思っていると、レンジャーの女性が再び口を開きました。
「ところで、あなたのザックだけど、あたなの体にはかなり大きいわね〜。置いていける荷物があるなら置いていってもいいのよ。あとで、北側のトレイル・ヘッドに送っておいてあげるわよ」
 実は、バスを降りた後、相当いい体格をしているはずの運転手のおじさんが、他のハイカーのザックは両手でひょいと持ち上げているのに、私のザックだけは引きずっていたのを思い出しました。
「こりゃ、この娘の荷物は重すぎる!荷物を減らすようにアドバイスしたほうがいいぞ。俺があとでいくらでも運んでやるからさ」
というわけで、案の定の成り行きなのです。
「うーん。でもこれでもいらないものはほとんど友人の家に置いてきたのよ〜。もう出せるものはないから、このまま行くわ」
私の言葉に
「オーケー、分かった。がんばってね。グッドラック!」
女性レンジャーは大きく親指を突き出しました。
 私はカナダの人たちのこんな部分がとても好きだなあと思います。相手に必要なアドバイスはきちんとした上で、あとは個人の判断を尊重してくれるところ。すべての決断も結果も個人にある、ということをいつも思い出させてくれます。

 大きなことを言った割に、ザックをよろよろしながら何とか背負ってバックルを締めた私は、「よ〜し!」と一声あげて、みーちゃんと一歩を踏み出しました。
数日前から晴天続きで、空気はからりと乾いています。

↑Top | 投稿者:菊地千恵