2004年02月10日 (火)

犬バカ

 世の中に「親バカ」は五万といるだろうが、きっと「犬バカ」だってそれに負けず劣らぬくらい存在するに違いない、と思う。自分の飼い犬の写真を持ち歩き、会う人毎に見せびらかして、我が子(犬)の可愛さを語りまくる人を私は笑えない。
 どんな犬に出会っても、最後には「やっぱり、ラフカイが世界で一番かわいいよなあ」という結論に落ち着いてしまう私たち自身、紛れもない「犬バカ」なのだ。

 さて、当のご本人であるラフカイ様はナッツ類が大好物である。ピーナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツに胡桃と何でも御座れ。味が好みというよりも、ナッツ類に油脂が豊富なのを犬は本能的に嗅ぎ分けるのだろうか。
 大分以前のことになるが、散歩中にラフカイが何処からともなく胡桃を一粒見つけてきた。そのままでは単なる遊び道具にしかならない。そこで田中さんは、ラフカイの目の前でその胡桃をかち割り、中身を食べさせてみた。ラフカイはそれにすっかり味を占めたらしく、その以降は胡桃を拾って来ては、自分の歯で堅い殻を割って食べるようになってしまった。
犬は学習するのである。
 
 友人と一緒に、殻付きピーナッツをつまみに酒を飲んでいたある晩。
自分の口に放り込む代わりに、時々ラフカイにもピーナッツをお裾分けする。ポリポリといい音を立て旨そうに食べている姿を見て、ふと考えた。
胡桃を割って食うんだから、ピーナッツくらい自分で殻を割るんじゃないか、と。
「ラフカイは天才だから、絶対にすぐ覚えるさ」
人間は相変わらず犬バカぶり全開だ。
「殻付きピーナッツを割って食べる方法」をラフカイに教えてみることにした。
 講師は胡桃講座に引き続き、田中勝之氏である。

ステップ1
 田中氏がまず、殻付きピーナッツを一つ両手を使って割ってみる。
「ほ〜ら、ラフカイ。こんなところにピーナッツが入ってるよ〜」
と中身を取り出して見せた後に、これ見よがしに口に運んで食べて見せる。
「あ〜、おいしいな〜」
今度は殻を歯で割って、再び同じように見せびらかす。
田中氏を見つめるラフカイの眼差しは真剣である。別に彼女が優秀な生徒なわけではなく、
「おい、そんなに見せびらかさないで、アタシにもよこせ」
と言いたいのかもしれない。

ステップ2
 歯で殻を割って中身を見せるところまでは前回同様。しかし、今回のピーナッツの行く先はラフカイの口の中である。この作業を数回繰り返す。これで、殻の中にはこんなに美味しいものが隠れているのよ〜、ということをラフカイは覚え込んだはずだ。

ステップ3
「さあ、今度は自分でやってみよ〜」
ラフカイの前に殻をひとつ置いてみた。
ラフカイは小首を傾げると、ソロリと殻をくわえてみるが、一舐めしただけで口から出してしまった。
「ダメか」私たちの間に軽い失望が走る。
が、ラフカイはもう一度殻を口に入れるやいなや、今度はバリバリと噛み砕いた。そして、粉々になった殻の間から鼻先でピーナッツを穿り返して食べている。
試しにもう一粒。床に置いた2つ目を今度はもっと上手に割っていた。
もう合格である。やっぱりラフカイは利口だった。
 私たちはヤンヤヤンヤの大騒ぎ。気を良くした人間たちから次々とピーナッツをもらうラフカイは食べるのに忙しそうである。

 それから数ヶ月後、私たちはまたもや殻付きピーナッツの山に手を伸ばしボリボリやっていた。ラフカイが隣に座り込んでいる、その姿勢がいやに正しい。真面目な顔つきをしているが、目的は明らかにピーナッツである。
 殻割り講習会からしばらく経つが、ラフカイの記憶力はどうだろう。それを確かめたくて、再びラフカイの前にピーナッツを置く。ラフカイは躊躇無く、殻を割り中身を食べた。
さすがだ、ラフカイ。しかし、フムフムと感心したところで話は終わらなかった。
 ラフカイはそのまま殻を食べ始めたのである。いったいどういうことだ。
犬はピーナッツの殻も食べるのか!?
訳の分からない展開に焦ってみるが、思わず好奇心で自分の食べ滓の殻だけをあげてみることにした。ラフカイは中身がナイことには全然お構いなしで、殻だけをムシャムシャ食べ続ける。しばし呆然。どうやら、ラフカイにとってはピーナッツの中身でも殻でも食べられれば、どっちでも良かったようだ。
 とすると、あの講習会はなんだったのだろう。殻も食べるのなら、別にわざわざ分けて食べなくても良かったではないか。間抜けな飼い主たちの騒ぎに、心優しいラフカイは仕方なく付き合ってくれただけなのか。
 私の頭をよぎるのは、ラフカイの利口さでも記憶力でもなく、田中氏と私のバカっぷりである。そのうちに「もうアンタたちには付き合いきれないわ」とラフカイそっぽを向かれそうで、ちょっぴり恐ろしいこの頃である。

rahkai_no1.jpg
 やっぱりラフカイが一番!

↑Top | 文:菊地千恵