2005年03月07日 (月)
ラフカイ出産記
■07:00
ラフカイが1Fでクンクン啼く
■08:00
啼きながらウロウロして落ち着きがない
トイレだと思い、一度外に出す
10分ほどで家に入れると、特設出産小屋に潜り込む
ウルフィーが窓の外を心配そうにウロウロ
お尻から羊水がポタポタ床に垂れる
垂れた羊水とお尻を丁寧に舐める
■10:00
泡まみれのねっとりとした液体を3回ほど嘔吐
呼吸が荒くなってくる
■11:00
扉を自分の頭で押し開け、外に逃亡
家の床下に潜り込もうとする
再び家に入れると、出産後屋へ入る
■12:00
陣痛が始まり、ときどき変な声で悲鳴を上げる
僕は対岸の森小屋へ薪ストーブをつけにいき、千恵が一人見守る
■12:20
ウルフィーと田中が森小屋から戻る
ラフカイは出産小屋の中で呻き声をあげ、お尻を執拗に舐めている
父親だと分かっているのか、ウルフィーは小窓から心配そうに見守る
■12:30
大きな声を上げた後、やたらと何かをペロペロ舐める音が出産小屋から聞こえる
覗いてみると、何やら黒い塊が! ラフカイはそれを懸命に舐めている
一瞬「胎盤か?」と思ったそれが、記念すべき第一子だった!
ぼくと千恵は、ラフカイの必死でけなげな姿と、新しい生命の誕生シーンに、喜びと感動で胸がいっぱいになってしまった。満面の笑みの千恵の両眼からは、透明の涙が溢れて、窓から射し込むまぶしい陽射しに輝いていた。
「どうしよぉ〜、かわいいよぉ。すっごいねぇ、ラフカイ。お母さんだねぇ。」
■12:35
必死に舐め続けたラフカイの刺激に答えて、子犬が元気な産声を上げる
■12:45
第二子の鼻先が陰部から覗いている。ピンク色の舌が口先から出ている
第一子は、ずっと元気な声を上げて啼いている
■12:55
再び陰部を執拗に舐め始め、息が荒くなった
大きな呻き声を上げ、第二子が胎盤と一緒に飛び出してきた
ラフカイは、すぐさま胎盤を食べ、ヘソの緒を切った
第二子は、第一子よりも動きが激しく、すぐに啼きだした
まもなく元気にオッパイを探して這いはじめる
第二子はオッパイを見つけるやいなや、ふんばって吸い付いた
第一子は相変わらず元気に啼いているが、這ってオッパイのところまでは行けず
2匹とも、ラフカイが抱え込んでいて、まだ性別は分からない
それぞれ鳴き声がぜんぜん違うのが面白い
■13:10
再びラフカイの呼吸が激しくなる。第三子の誕生か?
このあと、今日我が家にたまたま遊びに来る予定になっていたAさん母娘が到着。ラフカイの出産がはじまり、すでに2匹が誕生したことを伝えると、
「えっ! 今朝ちょうどK(娘さん)が夢で、今日ラフカイに赤ちゃんが生まれる夢見たんだよ。それも、自分では夢だと思ってないで『お母さん、ラフカイに赤ちゃんが生まれたよ』って、言ってたの。不思議ねぇ。」
と、とても驚いた様子だった。普段はあまり夢を見ない僕も、なぜだか昨夜は10回くらい、内容が別々の夢を見ては、その度にハッと目が覚めていた。それぞれ目覚めた瞬間には、内容を覚えていたが、朝起きたときにはすっかり忘れてしまっていた。珍しく朝早く起きたのも、最後の夢にハッと目覚めたのだった。それでなんだかラフカイが、とても気になって階下を覗いてみたら、落ち着きなくウロウロしていたのだった。
ラフカイが落ち着いて出産に集中できるようにと、ぼくたち4人はウルフィーを連れて対岸の森小屋へ。2匹を難なく産み落とした様子を見て、ラフカイに任せて大丈夫だと思った。森小屋で、ランチの準備をしていたとき、コーヒー豆を忘れたことに気づき、ぼくだけ家に戻った。ラフカイと2匹の子犬たちの様子を見ようと、特設出産小屋を覗いてみたら、なんとまた1匹、同じく真っ黒の子犬が生まれて3匹になっていた。ラフカイは、まだしっとりと羊水で毛が湿っている子犬の身体を、丁寧に、何度も何度も舐めていた。はじめの2匹は、すでに元気いっぱい。1匹はオッパイにしゃぶりつき、もう1匹も乳を求めてはいずり回っていた。3匹の子犬とラフカイを残し、再び森小屋へ戻る。
しばらくして、今度は千恵がキャンプ用のコーヒーメーカーを取りに家に戻った。森小屋へ帰ってきた千恵が、
「もう1匹産まれてたよぉ〜! なんと今度は真っ白!!!」
と叫ぶ。
「やったぁ〜! 白が産まれたぁ〜! ラフカイの母さんだぁ!」
そう、ラフカイの母犬は毛足の長い真っ白の北極オオカミのような犬だったのだ。僕は、もしかしたら隔世遺伝でこの白い母犬と同じ色の子犬が生まれるのでは?と密かに思っていた。だから、すごく嬉しかった。この白い1匹だけは、手元に残したい衝動が無性に沸いてきた。
それから夜の7時まで、A親子と森小屋で楽しくおしゃべりをして過ごした。夢の不思議、それはもしかしたら、とても近い存在同志の意識を、時間と空間を超えて繋げるものなのかもしれないなどと、今日起こった偶然を話し合った。
偶然と言えば、先日、今春までアメリカに留学している親友夫婦に、ラフカイが妊娠したこと、もし飼えるようなら産まれてくる子犬を1匹もらい受けてほしいことをメールに書いて送った。その返事が、これも不思議なつながりに満ちていた。ちょうど、ラフカイが発情期を迎えた昨年末、彼らは遙かアメリカのアパートの一室のベッドに横になり、翌春に大学院を終えて日本に帰国してからの生活について話し合っていた。日本では、故郷の青森の自然の中で暮らしたいと思っていたのだという。そして、そこで浮かんだアイディアは、周辺の野山を犬と一緒に駆け回って遊ぶこと。そうして、どんな犬がいいかに想いを巡らせた。瞬間、思いついたのは、ラフカイとウルフィーの子供だった。どうしてもラフカイとウルフィーの子が欲しくてたまらなくなって、2人してワクワク盛り上がり、青森の山や沢を一緒に駆け回るイメージが鮮明に沸いてきたのだそうだ。そして、偶然なのか、必然の連鎖なのか、正月にラフカイとウルフィーが合体した。ウルフィーはまだ生後8ヶ月の子犬だったので、まだ生殖能力はないだろうと、たかをくくって、まさかラフカイが妊娠しているとは思わなかったのだが、2月の半ば過ぎに突然ラフカイのお腹がふくれだし、オッパイも大きくなってきたからビックリして動物病院へ連れていくと、妊娠が分かったのだった。
親友夫婦の夢物語のイメージ、A母娘の娘Kちゃんの今朝の夢、ぼくの強い予感、すべては僕たちが現実と呼んでいる範疇の理解を超えた、なにか不思議な糸(意図)でつながっているような気がする。もしかすると、ぼくたちの今この瞬間の現実は、それぞれの心のイメージが常に創り出しているものなのかもしれない。いや、そうなのだという確信に似た気持ちが、今のぼくの中で、少しずつ形作られてきている。
■19:30
森小屋パーティーを終えて、A母娘とウルフィーを連れて、ラフカイの待つ我が家へと、みんなワクワク胸躍らせて戻ってきた。はじめに小屋に入った千恵が、そっとラフカイと子犬たちの様子を見た。
「あれぇ〜、もう1匹産まれてるぅ〜〜〜! 5匹だぁ〜!」
つやつやの黒いのが、さらに1匹、ぼくらがおしゃべりしている間に誕生していた。
ラフカイのお腹はすっかり凹み、これですべてがこの世に生まれ落ちたことを知った。
何事にも動じることなく、淡々と母の役割をたった一人でこなしたラフカイの姿と、必死になって光の世界へ飛び出してきて、この世の大気をはじめて胸一杯吸い込み、大きな鳴き声を上げる子犬たちに、4人で感動した。眼に見える姿だけではなく、それぞれの命そのものが輝いて見えた。ウルフィーも、玄関の開いた扉のところから首を長くし、目をまん丸くして、厚い布で覆われた出産小屋を見つめ、中から聞こえてくる子犬たちのミーミーいう声に、耳をピンとそばだてていた。そして必ず、遠目にクィ〜ンと啼くのだった。まだまだ子犬のウルフィーも、自分が父になったことを知ったのだろうか。それとも、なにやら聞こえてくる声に、新たな遊び相手を空想しているだけなのか。
【誕生記録】
□性別:オス1匹+メス4匹
□色:黒4匹(足先とお腹が白い)+白1匹
□体重:450g〜490g
□体長:約20cm(鼻先〜尻尾の付け根)
ラフカイと5匹の子犬たちに挨拶をすると、A母娘は、満天の星空の下、暗い山間の夜道を街へと帰っていった。ぼくはそんな夜空を見上げながらタバコをふかし、誰に対してでもなく「ありがとう」とつぶやいた。すべてに感謝したい気持ちだった。
ラフカイとウルフィーの夕食を千恵が作った。トイレもさせなければいけないなと思って、ラフカイを子犬たちのところから呼び出して、外に出した。すぐに隣の畑に行って用を済ませたラフカイは、差し出された餌には目もくれず、小屋の扉の前に戻って子犬たちの声に耳をそばだてクンクン啼いた。それでもちょっとは食べさせたいと思って、鶏肉をひとかたまり、つまんであげた。それを一口食べると、もう餌にはまったく見向きもしなかった。その後ろで、ウルフィーはムシャムシャと自分の分をガムシャラに食べていた。1日、外で一人、心配しながらも遊び回っていたウルフィーだって、赤ちゃんとラフカイに対する心配のための心労や、ひとりぼっちの孤独で疲れていたのだろう。いつになく食事を終えたウルフィーが大人しかった。ラフカイは、相変わらず玄関先に陣取り、振り返っては「中に入れて!」と僕の目を見つめた。ぼくはバケツに水を汲み、扉を開け、ラフカイの足を洗った。前足、後ろ足と洗っているあいだ、出産小屋の中から聞こえる我が子の声に気が急いて、ラフカイは大きな大きな悲鳴のような鳴き声を上げた。足をふき終えると、一目散に出産小屋へと駆け込み、その後はもう2度と出て来なかった。
ヒノキの葉っぱを敷き詰めた特設出産小屋に円く横たわったラフカイのお腹のところには、白黒の子犬たちがオッパイにぶら下がっている。キューキューとか、ミイミイとか、なんだか不思議な声を上げながら、必死に命を発している。ウルフィーは、出産小屋に近づくと中からラフカイの恐ろしい威嚇のうなり声が聞こえてくるので、入り口から子犬たちの姿を覗くこともできず、遠巻きに様子をうかがっていた。ときどき、寂しそうな声で啼くのが可哀想だけど、もうしばらくはラフカイ母さんに任せて、ウルフィーは優しく見守っていてあげるんだよ、と千恵と一緒に言い聞かせた。身体は大きいけれど、まだまだウルフィーの心も少年。小さな子犬たちにばかり気を取られてしまわないように気をつけなければ。
「ウルフィーは、とっても優しいお父さんだねぇ。今日は、ちゃんと外から見守ってて偉かったねぇ」
と話しかけると、目をクリクリさせて、分かったのか分からないのか、ホッとした表情を見せていた。
これで、我が家は今日から人間2人と犬7匹の生活がはじまった。たった6畳(ロフトが4畳)の小さな山里の小屋の中で。
↑Top | 文:田中勝之